中吊り広告は交通広告の要

「中吊り広告」とは、電車内で天井からつるされた広告のことをいいます。定置式の紙媒体としてはもっとも更新頻度の高いもので、2~3日のスパンで次々と新しいものに差し替えられていきます。
このため、中吊り広告は雑誌やセール・フェアといったリアルタイム性の高い告知に利用されることが多く、常に最新の情報が得られるため多くの人が注目します。

交通広告の中でも車内広告は「少なくとも1駅区間以上、同じ人がひとつの広告に間近で接する」という空間的・時間的接触率が高く、その結果「到達力が高い」という特徴があります。
そして中吊り広告はその位置的関係で車内広告の中で最も注目率が高く、特に「満員電車で新聞やケータイを開くこともできない、他に目のやり場のない状態でも読める」広告として、高い強制視認性を持っています。
これが、中吊り広告が「広告の基本」と呼ばれる理由です。

中吊り広告の特徴

中吊り広告は、その他の車内広告と共通する多くの特徴があり、それが最も強く働く媒体です。
具体的には以下の3点が挙げられるでしょう。

1.隅々までじっくり読んでもらえる

多くの屋外広告は人々が移動中に目にするため、よほど一瞬で興味をひかない限り、人は通り過ぎてしまいます。また広告と目の距離が遠いため細かな文字を読んでもらいにくく、ポスターなどでは少ないキャッチコピーで「イメージを伝える」ということに注力しなくてはなりません。
これに対し中吊り広告は静止接触時間が長く、目と広告の距離も適度なので「少々文字が多くても隅々まで読んでもらえる」という特徴があります。雑誌や書籍の中吊り広告に多くの見出しが並んでいるのもこのためです。
このように、中吊り広告には「眺める」ではなく「読ませる」力があるのです。

2.凝ったビジュアルを使っても、その凝り具合まで詳細に眺めてもらえる

これは1と同様で、中吊り広告にはデザインに細かな文様を使うなど、「詳細に眺めてもらうことでその美しさが伝わる」という特徴もあります。大きな写真を掲載して、その細部まで眺めてもらうことも可能です。
雑誌広告などではこうした手法がよく用いられますが、接触時間の短いテレビCMや屋外広告ではほとんどこうした手法は使えません。そういう意味でも中吊り広告は稀有な存在です。

3.「考えさせることによって印象を強める」手法が使える

中吊り広告をはじめ車内広告にはクイズやパズル、そして「これはどういう意味だろう?」と首をかしげさせるようなひねったコピーもよく使われます。これは強制視認性の高さと接触時間の長さによる「広告への集中度の高さ」によって可能になる表現手段です。
見た人が疑問を持ち、考えることによって広告への印象を強め、「わかった」と感じた瞬間に到達度が一段と高まります。

ユニークな中吊り広告

一般的な中吊り広告は横型のB5ワイドサイズのポスターになっていますが、中には随分ユニークなものもあります。
たとえば、ケータイキャリアのソフトバンクは山手線内にプラスチックの立体物でJellyBeansという機種の中吊り広告を出しました。この他にも透明のビニールに印刷したり、模型や造花を添えたり、ニットやレース、カーペットといった素材を使って乗客に手触りを楽しんでもらったりといった手法が可能です。(鉄道会社によって規制が異なります)
珍しい例では、進研ゼミが本物と同様の「絵馬」をぶらさげたこともあります。
ユニークな中吊り広告は注目度満点ですが、一方で多くの人が触れやすい場所でもあるため破損や盗難の心配もないわけではありませんからその点だけは要注意です。

中吊り広告で大切なこと

このような数々の特徴がある中吊り広告だけに、制作にはいくつかの注意点があります。
ひとつは、多くの人に細部まで鑑賞される媒体なのでレイアウト、配色、写真やコピーのクオリティなど全体としての完成度が要求されること。
もうひとつは、中吊り広告はリーセンシ―効果が高いため、実際の商品とデザインの同一性を保つことです。
リーセンシ―効果とは、直前に接触した広告が消費者に与える購買行動の影響力のことです。たとえば「電車の中吊りで見た雑誌を、電車を降りてすぐキオスクで購入する」というケースなどはもっともリーセンシ―効果が発揮された例です。
しかし、消費者の多くは商品名を正確に記憶するのではなく、中吊り広告のイメージを漠然と記憶して購入に向かう事が多いので、雑誌であれば表紙のデザインとよく似たデザインを、商品であれば商品のパッケージやビジュアルをしっかり中吊り広告に反映させておく必要があります。